戸塚祥太さん

"V"

初めて聴いたとき、「間奏が好きだな、多分曲自体『ドラマ』より好きだな」程度のことしか思わなかった気がする。

というのも「ABC STAR LINE」発売時、身の回りのことが忙しく、それは「A.B.C-Z Star Line Travel Concert」代々木公演初日直前まで続いていた。戸塚祥太さんのソロ曲「V」を、聴けてはいたものの、聴きこんではいなかった。

 

 

 

8月10日。

ソロ曲が連続する場合、先に歌うメンバーだけがその前の曲中に姿を消す。そのメンバーのファンにとって、彼が背を向け隙間に消えていくのだということに気がついた瞬間からソロは始まっている。緊張が走る。

ステージをほぼ真横から見るような席だった。向こうで戸塚さんがフライングし、石垣くんの立つ台の側を上下するのを眺めていた。降りる。ワイヤーを外してもらう。身を翻しステージからはける。

 

曲が終わり、暗転する。少しの静寂の後、客席がざわつく。ステージ上の半円形の台上に戸塚さんが出てきたのだろうか、その台の前半分しか見えないこちらからはわからない。

すると、細い柱と柱の間に青色がちらつき、一瞬後、見える範囲に、手が伸びてきた。横たわっているのだ、と理解できた途端笑みがこぼれた。最初からそんなテンションか、と。

ギターを抱え、台の端まで出てくる。去年のソロを思わせる青い服を着ている。額には水色のバンダナを巻いている、グッズのバンダナではなく。

やはり、というより、どうせ、といった類いの期待通り、ギターを構え歌い出す。彼のギターと歌声以外の音は無い。ああ、でも、去年と同じ演出でもこの曲が好きだ、と思っていた。

1番を歌い終わり、音源が流れる。と、戸塚さんが動いた。こちら側にある階段を駆け下りる。1階部分の隙間にギターを差し出す。目を疑った。「トキメキイマジネーション」のように、スタンドに置くこともしなかった。戸塚さんが、ソロのステージから、彼のギターを、退場させた。

 ぽかん、という擬音そのまま呆然としていると、真っ白な衣装を纏ったLove-Tuneがどこからともなく四方から中央に立つ戸塚さんの元へ集まってくる。うわ、と声が出たように記憶している。

戸塚さんが1人で、Jr.を従えて踊っている。

ただただ嬉しくて、必死に戸塚さんを見ていた。戸塚さんがソロコーナーで、主役として踊るダンスがずっと見たかったのだと気づいた。ちゃんと戸塚さんが求める部分を歌える喜びと、爆音で響く間奏の気持ちよさとで身体が一杯になるようだった。

 

 

 

10日の帰りの電車で、家で、11日の行きの電車で「V」を繰り返し聴いた。初めての公演で跳ね上がった"好き"が、聴くたびに歌詞、曲、記憶の中で踊る戸塚さんによって膨らんでいった。

翌日8月11日の2公演、戸塚さんのソロを純粋に楽しんだ。たった2ヶ月弱の間を開けるだけでも辛くて、暗闇から駆けだしてきて僅かな無音の中に微笑む戸塚さんを見て呻くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

10月までの間、自然と1日に1回は「V」を聴いていた。過剰になってもよくないと思ったが、思わず何回も繰り返してしまった。青色から桃色へと変わる夏の明け方のようで、朝にばかり聴いていた。聴きこみすぎて、始まる前から終わってほしくないと愚痴を垂れていた。

 

 

 

10月1日。

来てしまった。大阪に。この日が。グッズ売り場に並ぶ際に、CD販売スペースから流れてくる「V」に耳を塞いだ。始まってしまうのが怖かった。

 

席に着く。照明が一斉に輝き、河合くんの声が響く。センターステージの幕が落ちる。戸塚さんがこちら側に顔を向けているだろうというのは代々木で知っている。

 

画像・映像媒体でしか見たことのない、過去の戸塚さんがタイムスリップしてきたのだと思った。それくらい見覚えがあり、それまでの私の中の"現在の戸塚祥太さん"と様子が大きく変わっていた。同時にそんなことなどないと事実が頭を揺さぶっていた。戸塚祥太さんが髪の毛を切った。茶色く染めたメッシュ部分は無くなり、黒い前髪が額の中央ほどまでに短くなっていた。

 

戸塚さんがずっと前髪を伸ばし、先端にメッシュを重ねていたことを勝手に不満に思っていたが、おそらくメッシュを入れ直しているということから、本人が気に入っているのなら飽きたら切ってくれればいい、それは今ではないのだろうと思っていた。ファンミーティングで直接髪についていつか、いつ切るのかと質問するファンがいたことをTwitterで知っていた私には、このタイミングで髪を切ったことが何を意味するのか気になって、悪い想像をして悲しくなって、どうすればいいかわからなくて、しばらく錯乱状態に陥りわあわあ喚いていた。

 

セットリストで確認した「V」は記憶よりずっと早い場所に位置していたが、コンサートが始まってしまうともっと早く感じた。戸塚さんの髪型が変わったことを気がかりに思っていると、あっという間に曲が過ぎて、あっという間に戸塚さんがステージからいなくなった。

 

暗転。戸塚さんは駆けだすというほど元気には出て来ない。バンダナは巻かず、若く見える短い髪の毛で、柔らかい色合いのボーダーシャツを身に纏った戸塚さんは、若いというより幼かった。

 正直髪型のことが大きく戸塚さんの大阪での最初の弾き語りに集中しきることは出来なかった。しかし1番が終わる頃には懐かしくもある胸の痛みが蘇り、ああこれが終わると後には2回しか残されていないのだと思いながら、どことなく固い表情に見える戸塚さんのダンスを目に焼き付けようとした。

 

MC。自由にリラックスして話を始める5人を見てやっと気持ちが和らいだ。きっと髪の毛を切ったことを、理由を言わないまでも報告してくれるのだろうと待っていた。それは本人からではなく塚田くんの口から告げられたのだけれども、誰にも言わずいきなり髪の毛を切ってきた訳ではないと知りとりあえず安堵した。一緒に美容院に行ったはずの塚ちゃんにわざとらしく知らなかったようにつっこまれ、頼りなく張り詰めていた糸が綻ぶようにじんわりと微笑んでからの大阪の戸塚さんはとても楽しそうに見えた。もちろん私の主観によるもので、固く見えた表情がオープニングでの客席の明らかなどよめきのせいでなかったとしても、楽しそうに踊る戸塚さんはいつのときよりも素敵だった。

 

 

 

10月2日、昼公演。

「V」で戸塚さんは上半身裸になって現れた。バンダナは無し。私には「裸である」ということにそれほど戸惑いは無く、これから真剣に見つめることになるため少し気恥ずかしく感じる程度だった。真実は戸塚さんが語らない限りわからないが、戸塚さん自身に「Early Summer Concert」で上半身裸になったときのような明らかな興奮が感じられず、何らかの理由をつけるなら着る衣装を決められなかったか用意できなかったか、といった様子だった。いきなりV6の「太陽のあたる場所」のラップ部分を唱えだしたので興奮を顔に表していなかっただけなのかもしれないが。どよめきに少しかき消されたものの、後から彼の歌ったと思われる箇所はすぐに見つけられた。戸塚さんが好きそうな、というと戸塚さんのことをわかっているような文になってしまうが、戸塚さんの書く歌詞のイメージと近いものがあった。はじめイヤーモニターのコードが背筋に沿って伸びていたが耳からは外されていて身を翻すとすぐに宙に線を描いた。代々木のどこかの公演で外していた覚えがあったが衣服がないとそうなるだろうな、と笑ってしまった。彼は完全に上半身をさらけだしていた。自我までさらけだしてくれているように見えた。

衣服がどうなろうが「V」は綺麗で切なくて楽しかった。戸塚祥太さんは自由だった。

 

 

 

10月2日、夜公演。

戸塚さんがステージからはける曲が始まったときからずっと苦しくて、戸塚さんが客席に背を向け歩いていくその瞬間から腹部がどくどく脈打ち、胸が詰まって気持ち悪かった。もう終わってしまう。もうほぼ100%の確率で見られなくなる。行かないで。いっそ始まらないで。そんな叶わないとわかっている願いを本気で念じ、叶わないことに打ちのめされ、楽しいはずの曲を苦悶の表情で聴くことになってしまい本当に全ての人に申し訳なく思った。

 

暗転。戸塚さんがゆるやかなスピードで駆けだしてくる。代々木公演と同じ、青い服。スイムジャケット。バンダナは無い。あの髪型と共に一度バンダナと決別したのか、と思った。ここからの記憶が曖昧になってしまっている。最後の「V」が始まる前の空白は長く、マイクの前で止まって、歓声に「なんだよ」と微笑んで答えていたような気がする。自信が無い。戸塚さんが声を出して、音を出してくれないと始まらない曲が、この愛しい空白を作り出していた。戸塚さんが僕等の軌道、の後歌声を伸ばしていくと同時にオレンジ色のライトが回って放射線状に広がってゆく。そのときが好きでたまらなかった。人より少し早く歓声を上げた。戸塚さんが階段を降りる。ギターを隙間の向こうのスタッフに手渡す。Love-Tuneが集まってくる。戸塚さんが満面の笑みで1人1人とハイタッチをしていく。7人を呼ぶ仕草が綱を引き寄せるというものに変わっていた。もう揃っていなくてもいい、とでも言うように戸塚さんが1番飛び跳ねていた。最後の「V」は本当に楽しそうだった。この曲は歌い出しと共に始まり歌い終わりと共に終わる。歌い終わったら暗転して次の曲が息つく暇なく始まる。どうしても終わってほしくなくて、歌い終わりで一瞬俯いてしまった。ハッと顔を上げるとモニターにVサインが大きく抜かれている。そのVにキスして高く掲げたらしいというのは後で知った。それを見た瞬間、戸塚さんが大好きだと、改めてそう思った。最後にそれをとっておいて私たちに見せてくれた戸塚さんが、戸塚さんが私たちにくれた全ての「V」が、大好きだ。

 

 

 

 

 

追記:一番好きな人の一番好きなソロの最後の振り付けを、映像が発売されるそのときまで知らなかったということがとてもショックだった。しかしあの暗転の早さだったらアリーナ前列の人でもわからなかったのでは?それはいいとして、最後はこうやってずっと、高く掲げているから抜いてくれと戸塚さんが言ったんだろうか?言わずともそれを見逃さずカメラマンの方が抜いたんだろうか?どちらにしろ、いとしいことには変わりない。

 

広告を非表示にする